【労務の盲点】「着替え=労働時間」の常識が変わる?令和7年の最新判決


「始業前の着替え時間は、すべて労働時間になる」は本当か?

「始業前の着替え時間は、すべて労働時間になる」

巷では、これが当たり前の常識のように語られがちです。実際、厚生労働省のガイドラインや過去の最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件など)でも、「会社の指示で、義務付けられた制服に着替える時間は労働時間である」と明記されています。

しかし、令和7年(2025年)秋、これまでの常識を揺るがす注目の判決が出されました。

それが「西日本高速道路サービス関西事件(大阪地裁 令和7年10月30日判決)」です。

なんとこの裁判では、始業前の着替え時間が「労働時間ではない」と判断されたのです。

一見するとこれまでのルールと矛盾するように思えるこの判決、一体なぜそのような結論に至ったのでしょうか。

そこには、我々経営者が就業規則や運用の現場で見落としがちな、「2つの境界線」がありました。

裁判所が「労働時間ではない」と判断した2つの理由

これまでの判例で重要視されてきたのは、「事業場内(会社の中)で着替えることを余儀なくされているか」という点でした。

今回の裁判で労働時間性が否定された理由は、大きく分けて次の2点です。

① 制服の特性(そのまま通勤できるか?)

裁判になった企業の制服は、シャツ、ファスナー付きのブルゾン、長ズボンという構成でした。

裁判所はこれを「社会通念上、着て出勤することに特段の支障がないデザイン」と判断しました。

つまり、特殊な防護服や奇抜なデザインではなく、「自宅から着てこようと思えば、着てこられる服」だったということです。

② 場所の自由度(本当に会社で着替える義務があるか?)

次に重視されたのが、「どこで着替えるか」の自由度です。

  • 会社は制服の着用自体は指示していましたが、「必ず更衣室で着替えなさい」という明確な義務までは課していなかった
  • 従業員側は「上司から更衣室で着替えるよう指示された」と主張したものの、客観的な証拠がなかった。
  • 会社が「制服での通勤OK」と積極的に社内周知していなかったとしても、それだけで「更衣室での着替えが義務だった」とは言えない。

結果として、「自宅で着替えてきてもいい環境だった以上、会社の中での着替え時間は、会社の指揮命令下に置かれた時間とは言えない」と結論づけられたのです。

経営者として、この判決をどう活かすか?

この判決は、「じゃあ明日からうちも着替え時間を一律カットしよう」という単純な話ではありません。

重要なのは、「自社のルールと実態がどうなっているか」を客観的に把握することです。

  • 服の性質: 自社の制服や作業着は、外を歩いても不自然ではないものか?(油汚れが酷い、安全上持ち出し禁止、などの場合は、当然会社での更衣が必須=労働時間になります)
  • ルールの明確化: 「制服通勤を認めるか、禁止するか」「更衣室の利用を義務付けるか」が、就業規則や現場の指示で曖昧になっていないか?

「世間がこう言っているから」というイメージだけで判断するのではなく、こうした最新の司法判断のロジックを知っておくこと。

それこそが、無用な労務トラブルから会社を守り、従業員と健全な関係を築くための経営リテラシーだと改めて実感させられる事例です。

皆さんの会社の制服やルールは、今どうなっていますか?

まとめの視点: 「着替え=労働時間」かどうかを分けるのは、単に『制服があるか』ではなく、『場所と手段の選択の自由が従業員にあるか』。ここが大きなポイントです。

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